人類学の書籍紹介

人類学の文献を(読んだものは)コメント付きで紹介します

篠原徹 2019 『ほろ酔いの村』

篠原徹

 2019 『ほろ酔いの村 ――超過密社会の不平等と平等』 京都大学学術出版会 

ほろ酔いの村: 超過密社会の不平等と平等

ほろ酔いの村: 超過密社会の不平等と平等

 

  

目次

はじめに  

第1章 山の上に住む、ほろ酔いの人びと 

第2章 畑の中の墓標

第3章 不毛の大地を耕し段々畑を作る

第4章 屋根の上の土器

第5章 土器と市場の生態学

第6章 土器と織物の村 ――分業は不平等社会への橋渡しとなるか

おわりに  

 

内容

主食はビール! エチオピアの山上の村で人類学者が出会ったのは、超過密社会で暮らすほろ酔いで勤勉で、とってもケチな人々だった。近代化を突き進む世界から失われつつある社会に、不平等を生み出さない知恵を見る。

 

 

一言コメント

 エチオピアのお酒を主食とする人々についての民族誌。同じエチオピアでも砂野唯『酒を食べる』で報告されていたのとは別な人々です。一般書も含めて醸造の人類学はいまホットなトピックのようですね。若干のロマン主義というか本質主義的な観点は気になりますが、非常に興味深い一冊です。

 

酒を食べる-エチオピアのデラシャを事例として

酒を食べる-エチオピアのデラシャを事例として

 

 

高木仁 2019 『人とウミガメの民族誌』

高木仁

 2019 『人とウミガメの民族誌 ――ニカラグア先住民の商業的ウミガメ漁』 明石書店

人とウミガメの民族誌――ニカラグア先住民の商業的ウミガメ漁

人とウミガメの民族誌――ニカラグア先住民の商業的ウミガメ漁

 

  

目次

第一章 序論

 一.問題の所在

 二.先行研究と本書の学術的位置づけ

 三.現地学術調査について

 

第二章 大航海時代の発見の片隅で

 一.ウミガメ諸島(Las Tortugas)の発見

 二.富と名声の象徴として

 三.二つの民族集団と二つの宗主国

 四.英領ケイマンとモスキート・コーストへの南進

 五.米開発資本とワシントン条約自治州の設立

 

第三章 インディアンたちの生産科学

 一.資源管理下の先住民漁業

 二.換金できる海産物をめぐる領海の分割

 三.集団編成の論理

 四.現代のアオウミガメ漁獲作業

 五.海上での航路と空間的合理

 六.漁の季節と海流

 七.生産性の向上

 

第四章 富や財としての価値

 一.ミスキート社会における希少動物の価値

 二.換金商品のロブスターが生み出す莫大な富

 三.港町での流通

 四.金銭的な価値とその交換

 五.村の交換財として価値

 六.海産物交易の中で

 

第五章 肉としての価値

 一.高依存度とその解釈について

 二.偏在するウミガメの肉

 三.商品化の模様

 四.現代のキッチン

 五.欧風の味付けや調理法の導入

 六.家畜動物の肉

 

第六章 討論

 一.問題に対する本研究の位置づけ

 二.文明社会における希少動物アオウミガメの保護や管理方法について

 三.「地球」という空間に対する意識の変化の中で

 

第七章 結論

 

付録

 1 老漁師の話〈原文〉

 2 老漁師の話〈訳文〉

 3 大きな船の建造方法

 4 アオウミガメ漁獲作業の航路

 5 港町(Bilwi)や近郊の漁村での流通・消費に関するデータ

 

 あとがき

 参考文献

 

内容

 ニカラグアカリブ海岸、ミスキート村落。今では絶滅危惧種に指定されているウミガメを、古くから食用をはじめ生活の中で消費してきた人々がいる。ウミガメとともに営む彼らの暮らし、そしてそれが時代につれて変わりゆく様をきめ細かに綴った貴重な記録。

 

 

 

中屋敷千尋 2019 『つながりを生きる ――北インド・チベット系社会における家族・親族・隣人の民族誌』

中屋敷千尋

2019 『つながりを生きる ――北インドチベット系社会における家族・親族・隣人の民族誌

 

目次

はじめに

序章

第一章 調査地の説明

第二章 チベット系社会における婚姻、家族と親族

第三章 スピティにおける婚姻、家族と親族

第四章 農作業におけるニリン関係

第五章 宗教実践におけるニリン

第六章 階層と親族

第七章 隣人と友人関係

第八章 ニリンの集団化と政治利用

終章 サブスタンス論を超えて

あとがき

 

内容

 ヒマラヤ山脈中腹、スピティ渓谷に暮らす人々のゆるやかな親族範疇、ニリン。本書は、系譜や婚姻によるだけでなく、身体を寄せ合う暮らしの中でつくりだされる「つながり」に着目。生活の機微やリアリティの生成過程に身を置いて考究。注目の実験的民族誌

 

 

 

澤井充生 2019 『現代中国における「イスラーム復興」の民族誌』

澤井充生

 2019 『現代中国における「イスラーム復興」の民族誌 ――変貌するジャマーアの伝統秩序と民族自治明石書店 

 

目次

まえがき

序章

第1部 現代中国の民族・宗教・社会主義

第1章 中国西北のイスラーム寧夏回族の社会生活

第2章 中国共産党の民族・宗教政策と回族社会

第2部 国家権力と清真寺

第3章 清真寺の伝統秩序と権力構造

第4章 清真寺に介入した国家権力――共産党・行政・宗教団体・清真寺の共棲

第3部 変貌する宗教儀礼と民族文化

第5章 異端視される死者儀礼――イスラーム改革の理想と現実

第6章 異民族には嫁がせない――民族内婚とその変容

第7章 酒がならぶ円卓――婚礼にみる回族の「漢化」

第4部 中国イスラーム界に流布する愛国主義

第8章 統制される宗教、脱宗教化される民族

第9章 「右派分子」から殉教者へ――政治運動に翻弄された宗教指導者

終章 現代中国における「イスラーム復興」のゆくえ

あとがき

 

内容

文化大革命終了後の改革・開放政策により、1980年代以降、中国各地で「イスラーム復興」が開花する。本書は、それに伴う清真寺を中心とするジャマーアの秩序形成に見られる変容と、共産党主導の国民統合とムスリム少数民族との政治力学について考察する。

 

 

尾崎孝宏 2019 『現代モンゴルの牧畜戦略 ――体制変動と自然災害の比較民族誌』

尾崎 孝宏

2019 『現代モンゴルの牧畜戦略 ――体制変動と自然災害の比較民族誌』 風響社

現代モンゴルの牧畜戦略―体制変動と自然災害の比較民族誌

現代モンゴルの牧畜戦略―体制変動と自然災害の比較民族誌

 

 

目次

はじめに

第1章 本書のねらいと視野

 第1節 モンゴル高原と牧畜をめぐる基本条件

 第2節 モンゴル(人民共和)国における社会主義化と民主化

 第3節 牧畜戦略と郊外化の概念

 第4節 本書のもくろみと学問的意義

 

第2章 モンゴル国遠隔地における牧畜ユニットの構成と季節移動

 第1節 オンゴン郡における牧畜ユニット

 第2節 夏季の営地選択の年変動

 第3節 年間移動ルートのパターン

 

第3章 内モンゴルにおける牧畜ユニットの構成と季節移動

 第1節 内モンゴルにおける定住化プロセスとゾドの影響

 第2節 固定家屋化と牧畜ユニットの変動

 第3節 内モンゴルモンゴル国の比較(1990年代末段階)

 

第4章 モンゴル国における郊外の成立と牧畜戦略の実践

 第1節 郊外化の事例1(ボルガン県)

 第2節 郊外化の事例2(ヘンティ県南部)

 第3節 郊外化の事例3(ヘンティ県東部)

 

第5章 ゾドがもたらす牧畜戦略の変化

 第1節 個人的経験としてのゾド

 第2節 地方社会レベルにおけるゾド経験の意味

 第3節 遠隔地におけるゾド対応としての鉱山

 

第6章 内モンゴルにおける郊外成立の要因

 第1節 西部大開発に伴う諸政策

 第2節 草畜平衡の規定と実態

 第3節 郊外化の事例1(ウランチャブ市)

 第4節 郊外化の事例2(シリンゴル盟)

 

第7章 モンゴル国および内モンゴルの遠隔地における牧畜戦略の実践

 第1節 オンゴン郡における遠隔地化の検討

 第2節 モンゴル国遠隔地におけるウマの社会的機能

 第3節 内モンゴルにおける遠隔地の牧畜戦略

 

第8章 結論

おわりに

 

内容

モンゴル国内モンゴル自治区における近20年の牧畜産業の動態を比較検討。異なる国家、社会、政策のもと、多様化と変容の差はありながら、共通する二極構造を析出。それは、近郊と遠隔地の二極化が国境を挟んで同時進行する様態だが、その背景や内実にも多くの共通点があった。精緻な調査が描く、草原の構造変化とは。 

 

砂野唯 2019 『酒を食べる ――エチオピアのデラシャを事例として』

砂野唯

2019 『酒を食べる ――エチオピアのデラシャを事例として』 昭和堂

 

目次

序 章 食べ物である酒との出会い

第1章 食べる酒パルショータのつくり方

第2章 酒を主食にする食文化

第3章 パルショータの栄養価

第4章 デラシェ地域の農業

第5章 モロコシを保存する地下貯蔵穴ポロタ

終 章

あとがき

 

内容

エチオピアのデラシャーは、酒を主食として生活している。集団の維持に正しい判断がなされるのか、混乱や間違いは起きないのか。酒を主食とする理由はなにか。判断力の低下や感情の高揚、さらには酩酊さえ伴う「飲酒」が日常生活の中心をなす集団の生活に迫り、彼らの食と文化のありようを描きだす。

 

一言コメント

  お酒を主食にする人々についての衝撃の民族誌。いわゆるグローバル化が進んだことでわれわれの常識を根底から覆すような生活はなかなか見当たらなくなったように思いますが、さにあらず。世界は広いということの純粋な驚きを与えてくれる本です。素人っぽい感想ですが。

河野正治 2019 『権威と礼節 ――現代ミクロネシアにおける位階称号と身分階層秩序の民族誌』

河野正治

2019 『権威と礼節 ――現代ミクロネシアにおける位階称号と身分階層秩序の民族誌』 風響社

 

目次

序論 現代ミクロネシアにおける身分階層秩序の民族誌――本書の視座

  第Ⅰ部 ポスト植民地時代における位階称号と礼節の技法

第一章 歴史のなかの首長制

第二章 行為としての礼節

第三章 礼節のポリティクス

間奏 「外国人」から「東京のソウリック」へ――称号をもらうまでの道のり

 

 第Ⅱ部 首長の権威と祭宴のポリティクス

第四章 親族の協力と葛藤――村首長の一家を焦点として

第五章 祭宴を通じた共同体の維持と創出

第六章 初物献上の時間性

第七章 「首長国ビジネス」と対峙する島民たち

結論 ポスト植民地時代の身分階層秩序をめぐる権威と礼節

 

あとがき

 

 

内容

伝統的権威体制と近代国家体制が今も併存するポーンペイ島。その均衡は、成人の大半が持つ位階称号の権威とそれに見合う礼節によって保たれてきた。本書は、礼節の技法の持つ潜在的な力=新たな関係性を生み出す力を軸に、変容する島の社会と動態的な規範概念を描き出す。

 

 

一言コメント

 オセアニア研究では里見氏と並んで注目されている若手人類学者、河野氏の博論出版。位階称号に生きる人々と現代との相克を描く骨太な民族誌(のはず)です。単著としては未読なので、いずれ追記します。