人類学の書籍紹介

人類学の文献を(読んだものは)コメント付きで紹介します

佐川徹 『暴力と歓待の民族誌―東アフリカ牧畜社会の戦争と平和』

佐川徹
 2011 『暴力と歓待の民族誌 ――東アフリカ牧畜社会の戦争と平和昭和堂


目次
第1章 序論
第2章 ダサネッチの概要
第3章 国家と集団間関係
第4章 戦争経験と自己決定
第5章 横断的紐帯と境界
第6章 外部介入と平和維持
第7章 結論

内容(出版社サイトより)

アフリカ大陸北東部の辺境にくらす集団ダサネッチ、彼らは日常的に近隣集団との戦いのなかにある。しかし、同時に戦闘の相手を平和的に訪問したり、婚姻関係を結んだりもする。日常的な彼らの戦闘と平和の往来の過程を分析し、国民国家の境界が曖昧になりつつある現代に、「隣人」との関係のあり方を問う。

 

一言コメント

 現在は慶応義塾大学で准教授を務める著者の博論を基にした民族誌であり、2013年の澁澤賞受賞作。エチオピアスーダンケニアの三国国境付近に暮らすダサネッチと呼ばれる人々のあいだでおこなった約二年間のフィールドワークを通して、ある集団が敵かつ味方である他の集団といかなる関係を取り結んでいるか、実践のレベルから描き出してゆく本です。理論枠組みやデータは素晴らしく、博論出版とは思えないほどの完成度。さらに民族誌的な細部も鮮やかで、自動小銃を抱えた人たちと一緒に遊牧に出かけたり、軽口を叩いたら娘が家出して帰ってこなかったりと、「マジかよ……」と思うところも含めて読者を飽きさせません。アフリカの人類学的紛争研究といえばハッチンスのNuer Dilemmasや、日本では栗本英世による研究が有名ですが、本書はそうした先行研究を踏まえつつさらなる高みへと到達しているように思います。少なくとも日本では、今後も本書以上の紛争人類学研究が出てくることはないでしょう。