人類学の書籍紹介

人類学の文献を(読んだものは)コメント付きで紹介します

浜田明範(編)『再分配のエスノグラフィ: 経済・統治・社会的なもの』

浜田明範(編)

 2019 『再分配のエスノグラフィ: 経済・統治・社会的なもの 』悠書館

 

目次

序論 再分配を通じた集団の生成――手続きと複数性に注目して(浜田明範)

第一部 再分配をめぐる政治
第1章 誰がボタンを押すのか――フィンランドの緊急通報システムにみる要求/提供のダイナミクス(高橋絵里香)
第2章  再分配制度としての介護保険法とコミュニティの再編――沖縄・離島社会を事例に(加賀谷真梨)
第3章 再分配のアナロジー――インドにおける生モラルと国家制度の重なり合い(田口陽子)

第二部 集団の生成
第4章 メラネシア人類学における再分配の境界――「集団」と「戦争」をめぐって(里見龍樹)
第5章 執拗なる共食の実践――ガーナ北部の西ダゴンバ地域における穀物の不足と同居家族の経済関係(友松夕香)
第6章 再分配を通じた村人のつながりと差異化――ミクロネシア・ポーンペイ島における首長制と住民の帰属意識(河野正治
第7章 12月のプランカシ――ガーナ南部において集める/集まるということ(浜田明範)

 

内容

――なぜいま再分配の人類学なのか? 2010年代、経済政策としての富の再分配の重要性を指摘し、最低賃金 の上昇を旗印にした社会運動が国内外で注目され、支持を集めた。いっぽう、人類学における「再分配」は、市場とは異なるものであり、市場に対抗するための手段であるという見方が提示されてきた。人類学における「再分配」と所得再分配政策としての富の再分配は、国民国家を前提としているかどうかや、格差の是正を志向しているかどうかなど大きく異なる点もあるが、共通している部分もある。本書では、人類学で古典的に議論されてきた、より小規模の再分配的な実践だけではなく、所得再分配政策における富の再分配とその影響についても射程に収める。再分配的な実践の多様性を提示するとともに、個々の地域や集団、さらに国家における実践の特徴を抉り出し、人類学において再分配について議論する現代的な意味を明らかにする。

 

 一言コメント

 国立民族学博物館でおこなわれた若手共同研究をもとに、日本の人類学の次代を担う若手研究者たちが編んだ論集。単にどこかの異文化でおこなわれている再分配の現状を報告するというだけでなく、現代世界のアクチュアルな問題、とりわけ国家と人々のあいだにおける富の分配に対して、各地の事例を通して批判的に再考してゆこうとする点に意欲を感じます。まだパラパラとしか読めていないので、そのうち追記しようと思います。