人類学の書籍紹介

人類学の文献を(読んだものは)コメント付きで紹介します

田辺繁治(編) 1989 『人類学的認識の冒険 ――イデオロギーとプラクティス』

田辺繁治(編)

 1989 『人類学的認識の冒険 ――イデオロギーとプラクティス』 同文舘出版

人類学的認識の冒険―イデオロギーとプラクテイス

人類学的認識の冒険―イデオロギーとプラクテイス

 

 

目次

序章 人類学的認識の冒険

第Ⅰ部 人類学の射程

第1章 民族論メモランダム (内堀基光)

第2章 「血」の神秘 ――親子のきずなを考える (清水昭俊)

第3章 民族誌的記述と精神医学的面接 (野田正彰)

第4章 人類学にできること (関本照夫)

第5章 民族誌記述におけるイデオロギーとプラクティス (田辺繁治)

 

第Ⅱ部 現代思想の地平

第6章 イデオロギーとプラクティス (今村仁司)

第7章 イデオロギーと主体の構成 (山崎カヲル)

第8章 イデオロギー批判の問題次元 ――「アルチュセール・テーゼ」の転換 (高幣秀知)

第9章 儀礼研究への方法論的前梯 ――物象化論の視座から (廣松渉)

 

第Ⅲ部 民族誌の実践

第10章 アッラーと人々のあいだに ――イスラームにおける「近代」の一側面 (大塚和夫)

第11章 南インドのハリジャン自立運動 (中村尚司)

第12章 必然に閉じ込められた変革 ――儀礼の強制力に関する一考察 (宮永國子)

第13章 ヒンドゥ奉納儀礼の研究 ――カーヴァディとそのコンテクスト (田中雅一)

第14章 死を投げ棄てる方法 ――儀礼における日常性の再構築 (浜本満)

第15章 語り意味から操りの力へ ――西ケニアのフィールドワークから (松田素二)

第16章 イデオロギーの構築と歴史 (モーリス・ブロック)

あとがき

 

内容

 儀礼エスノグラフィ、現代思想をめぐって人類学の新たな地平を切り拓く。人類学、哲学、経済学、精神医学などからの総合的アプローチ。国立民族学博物館の共同研究の成果。

 

一言コメント

 分野外には知られていませんが、人類学徒なら知らぬものはない名著です。ちょうど30年前に編まれた論集で、いま定年に差し掛かろうかという大御所たちの若りし日の勢いある論考が並んでおり圧巻です。特に「第1章 民族論メモランダム」と「第14章 死を投げ棄てる方法」は現在も頻繁に引用される重要論文。この本が出版されたのはまさにWriting Cultureの津波が日本に押し寄せている時期で、まもなく日本の人類学も壊滅状態に陥ってしまうわけですが、その最後の煌めきと言ってよいかもしれません。

 また第Ⅱ部の現代思想家たちとの対話については当時の状況が垣間見られて興味深いです。雰囲気はようやく息を吹き返した2010年代日本の人類学と似ているようにも思います。現在は「存在論」として交わされている議論が、このころは「認識論」のタームのもとにおこなわれていたと、解釈できるのではないでしょうか。