人類学の書籍紹介

人類学の文献を(読んだものは)コメント付きで紹介します

今井一郎 『アフリカ漁民文化論』

今井一
 2019 『アフリカ漁民文化論 ――水域環境保全の視座』春風社

 

目次

序章 アフリカ漁民文化の研究(中村亮今井一郎)

第Ⅰ部 アフリカ漁民の知恵と技術
第1章 アルバート湖岸に生きる漁民の知恵―逆境を制御するための実践(田原範子)
第2章 ケニア共和国沿岸南部の魚かご漁における漁具と漁法(田村卓也)
第3章 ガーナ共和国首都アクラにおけるガ漁師の延縄漁(古澤礼太)

第Ⅱ部 アフリカ漁民の経済活動
第4章 ザンビア・カリバ湖の商業漁業―アクターの変化と資源をめぐる諸問題(伊藤千尋
第5章 急成長するザンジバルダガー産業と地域経済の活性化(藤本麻里子)
第6章 市場のアフリカ漁民たち―コンゴ共和国ブラザビル市のローカル・マーケットの観察から(大石高典・萩原幹子)

第Ⅲ部 アフリカ漁民の資源管理の課題
第7章 アフリカ内陸湿地の漁師たち―マラウイ国チルワ湖の調査から(今井一郎)
第8章 ドローン空撮によるマラウイ共和国内水面漁業調査(山田孝子)
第9章 ギニア沿岸部における製塩業と水域環境保全の実態(中川千草)
第10章 アフリカ漁民社会の地域振興と資源管理の課題―タンザニア南部キルワ島の「魚景気」から(中村亮
あとがき

 

内容

アフリカの水辺に暮らす人々の民族誌
経済活動が活発化するなかで、いかに持続可能な漁業を行うことができるか?
内水面(河川・湖)から海面におけるアフリカ漁民の多様な実態を、知恵や技術、経済活動、資源管理の側面から明らかにする。

 

 

 

綾部恒雄(編) 『文化人類学の名著50』

綾部恒雄(編)

 1994 『文化人類学の名著50』 平凡社

 

 

目次

1 草創期文化人類学の古典

タイラー 『原始文化』

モーガン 『古代社会』

フレーザー 『金枝篇

ウェブスター 『未開の秘密結社』

ファン・ヘネップ 『通過儀礼

エルツ 『右手の優越』

レヴィ=ブリュール 『未開社会の思惟』

デュルケーム 『宗教生活の原初形態』

 

2 近代人類学の系譜

サピア 『言語』

マリノフスキー 『西太平洋の遠洋航海者』

モース 『贈与論』

シュミット 『民族と文化』

ホカート 『王権』

デ・ヨセリン・デ・ヨングトリックスターの起源』

岡正雄 『異人その他』

ベネディクト 『文化の諸型』

ベネディクト 『菊と刀

エヴァンズ=プリチャード 『ヌアー族』

石田英一郎 『河童駒引考』

ラドクリフ=ブラウン 『未開社会における構造と機能』

 

3 啓蒙的名著

ミード 『男性と女性』

ピット=リヴァーズ 『シエラの人びと』

マードック 『社会構造』

クラックホーン 『人間のための鏡』

リーチ 『高地ビルマの政治体系』

レッドフィールド 『農民社会と文化文明への人類学的アプローチ』

ホール 『沈黙のことば』

フォーテス 『西アフリカの宗教における「エディプス」と「ヨブ」』

 

4 構造主義・象徴論・生態学的思考

レヴィ=ストロース 『野生の思考』

レヴィ=ストロース親族の基本構造

ニーダム 『構造と感情』

梅棹忠夫 『文明の生態史観』

ダグラス 『汚穢と禁忌』

コーエン 『二次元的人間』

ファン・バール 『互酬性と女性の地位』

 

5 現代の視点

フリードマン 『中国の宗族と社会』

中根千枝 『タテ社会の人間関係』

山口昌男 『文化と両義性』

ターナー儀礼の過程』

シュー 『クラン・カースト・クラブ』

デュモン 『社会人類学の二つの理論』

サーリンズ 『石器時代の経済学』

サウスホール 『都市人類学』

ゴドリエ 『人類学の地平と針路』

川田順造無文字社会の歴史』

グレイザー/モイニハン 『人種のるつぼを越えて』

ギアツ 『ヌガラ ―19世紀バリの劇場国家』

ポランニー 『人間の経済』

ホブズボウム 『創られた伝統』

アンダーソン 『想像の共同体』

 

内容

1871年、タイラーの「原始文化」から始まり、1976年のレヴィ=ストロース構造主義理論に至る文化人類学の発展、それに伴いこの分野の著作も膨大な数にのぼる。文化人類学の名著50冊を選んで解説した。

 

一言コメント

 文化人類学の定番ブックリスト。ちょっと古いですし、コーエンとかファン・バールみたいに今はもう読まれていない人も入っていて一般の方にはおすすめしにくいのですが、90年代日本の文化人類学界隈においてどのような本が重要視されていたのかという意味でも興味深いです。いずれの本についても詳しく内容と意義が説明されているので、文化人類学徒であれば、原著は手に取らずとも本書には目を通しておくべきだと思います。『文化を書く』が入っていないのは不思議ですが、まだ邦訳が出ていなかったからなんですかね。

松村圭一郎 『所有と分配の人類学』

松村圭一郎
2008 『所有と分配の人類学 ――エチオピア農村社会の土地と富をめぐる力学』世界思想社 

 

目次

はじめに 「わたしのもの」のゆらぎ
凡例

序論
 第1章 所有と分配の人類学
 第2章 多民族化する農村社会

第I部 富をめぐる攻防
 第3章 土地から生み出される富のゆくえ
 第4章 富を動かす「おそれ」の力
 第5章 分配の相互行為
 第6章 所有と分配の力学

第II部 行為としての所有
 第7章 土地の「利用」が「所有」をつくる
 第8章 選ばれる分配関係
 第9章 せめぎあう所有と分配

第III部 歴史が生み出す場の力
 第10章 国家の所有と対峙する
 第11章 国家の記憶と空間の再構築
 第12章 歴史の力

結論
 第13章 所有を支える力学

 

内容

人びとは、富をいかに分け与え、「自分のもの」として独占しているのか?エチオピアの農村社会を舞台に、「所有」という装置が、いかに生成・維持されているのかを緻密に描き出す。「私的所有」という命題への人類学からの挑戦。 

 

一言コメント

 現在もっとも注目されている人類学者の一人、松村氏のデビュー作にして2010年の澁澤賞受賞作。エチオピアにおける所有をテーマにした民族誌ですが、私的所有に対して共同の所有を対置するといった単純なかたちでの相対化あるいは非西洋社会の称揚ではなく、そもそも所有とはなにか、人はなぜ所有するのかといった根源的な問いにまで遡る刺激的な論考です。

中村沙絵 『響応する身体』

中村沙絵

 2017 『響応する身体 ――スリランカの老人施設ヴァディヒティ・ニヴァーサの民族誌』ナカニシヤ出版

 

 

目次

はじめに  フィールドとの出遭い  
序 論 ヴァディヒティ・ニヴァーサが投げかける問い

第Ⅰ部
第一章 老親扶養をめぐる規範と実態
    ――シンハラ農村社会の家族と世代間関係から
第二章 シンハラ社会とモラトゥワ
    ――ヴァディヒティ・ニヴァーサをとりまく社会的・空間的文脈

第Ⅱ部 ダーナ実践がとりむすぶ社会関係
第三章 ヴァディヒティ・ニヴァーサの成立
    ――ダーナを通したチャリティの現地化
第四章 ヴァディヒティ・ニヴァーサを支える社会関係
第五章 揺らぐ「与え手/受け手」関係
    ――ダーナ実践における相互行為とその意味

第Ⅲ部 施設における老いと死、看取り
第六章 「生活の場」としての施設
    ――MJSニヴァーサ概況
第七章 ヴァディヒティ・ニヴァーサで生きるということ
    ――入居者たちの「人生の物語」と日常生活の記述から
第八章 ヴァディヒティ・ニヴァーサにおける死と看取り
結 論 ヴァディヒティ・ニヴァーサを支える関係性とその倫理

補 論 スリランカにおける高齢者福祉の展開

 

内容

よるべなき年長者たちが集う施設のエスノグラフィー――
老病死を支える関係性は、他人でしかない人々の間にいかに築かれているのか。少子高齢化の進むスリランカの老人施設が投げかける問いとは何か。

本書が明らかにしようとしているのは、ヴァディヒティ・ニヴァーサという施設は、入居者たちが「声」をあげ、周囲がその「ニーズ」を掬いだし、要望に応えようとする場である以上に、他者の苦悩に共鳴してしまう、あるいは苦悩を抱えた他人の身体を生きてしまうような契機が常に潜んでいる場であった、ということである。

 

一言コメント

 2018年度の澁澤賞を『「海に住まうこと」の民族誌』と同時受賞した作品。意外に思う人も多いかもしれませんが高齢者施設の人類学は現在ホットなトピックでして、春日直樹さん(フィジー)のような大物から、高橋絵里香さん(フィンランド)といった比較的若手まで、さまざまな人が取り組み研究成果が蓄積されています。本書はスリランカの老人施設における研究で、赤の他人であるはずの入居者たちがいやおうなく身体的な共感関係に入ってしまう、そんなあり方をごく厚く描き出した力作です。老いというものが、人類に普遍的な現象であるとともに、強く文化によって規定されたものでもあることを感じさせます。

里見龍樹 『「海に住まうこと」の民族誌』

里見龍樹

 2017『「海に住まうこと」の民族誌 ――ソロモン諸島マライタ島北部における社会的動態と自然環境』風響社

 

目次

はじめに

序論 別様でありうる「住まうこと」─非同一的な生の民族誌に向けて
第一章 「海に住まうこと」の現在─民族誌的概観
第二章 海を渡り、島々に住まう─移住と人工島群の形成史
第三章 海を渡る生者たちと死者たち─葬制、移住と親族関係
第四章 「カストム/教会」の景観─現在の中のキリスト教受容史
第五章 夜の海、都市の市場─漁業と「住まうこと」の現状
第六章 生い茂る草木とともに─土地利用と「自然」をめぐる偶有性
第七章 想起されるマーシナ・ルール─「住まうこと」と偶有性の時間
結論
あとがき

 

内容

サンゴを積み上げた人工の島に暮らす人々。悠久の昔から続く南洋の長閑な風景と見まがう。だが、ひとびとの日常に深く寄り添うと、そこには絶えざる変化と切り結ぶ日々新たな生活があった。同時代を生きる者同士としての共振から新たな民族誌を展望。

 

 

一言コメント

 人類学会若手のエース里見氏の博論出版であり、第45回澁澤賞と第15回アジア太平洋研究賞(井植記念賞)のダブル受賞作。堅実なフィールドワークの成果に基づきながら、他者の現実を通して我々の自明を根底から揺さぶってゆく、人類学の潜勢力を改めて知らしめる一冊。特にこれから博論を書く人は参考になるので目を通しておくべき。

川田牧人・白川千尋・関一敏(編) 『呪者の肖像 』

川田牧人・白川千尋・関一敏(編)

 2019 『呪者の肖像 』 臨川書店

 

目次

序(川田牧人

第Ⅰ部 呪者に会う
 第1章 イカサマ呪者とホンモノの呪術―東北タイのバラモン隠者リシ(津村文彦)
 第2章 鍛錬と天賦―呪者になるためのふたつの経路(川田牧人
 第3章 私は呪術師にはならない―知識とともに生きる(大橋亜由美)
 第4章 西欧近世における「呪者の肖像」―高等魔術師と魔女(黒川正剛)
第Ⅱ部 呪術にせまる
 第5章 日常から呪術への跳躍      
       ―ミャンマーにおける「上道の師」と「精霊の妻」の憑依実践(飯國有佳子)
 第6章 力と感性―北タイにおける二人の呪者(飯田淳子)
 第7章 タイ北部におけるシャンの在家朗誦師の活動(村上忠良)
 第8章 冒険する呪者たち―ナイジェリア都市部呪医の実践から(近藤英俊)
第Ⅲ部 呪者と呪術のあいだで
 第9章 治療師としてのふさわしさ
       ―ヴァヌアツ・トンゴア島の伝統医療と担い手の関係(白川千尋
 第10章 妖術師の肖像―タイ山地民ラフにおける呪術観念の離床をめぐって(片岡樹)
 第11章 〈呪力〉の「公共性」(梅屋潔)
終章 呪者の肖像のほうへ(関一敏)
あとがき(白川千尋

 

内容

本書は、個々の呪術の営みの中心にあってそれを執り行なう人、いわゆる呪者の個人的技芸からどれだけ呪術そのものを記述できるかという試みを通して、「呪術とはなにか」という根源的な問いに迫る。

第Ⅰ部は「呪者に会う」と題し、各執筆者がフィールドで出会った呪者(あるいは文献上で出会った呪者)を中心にその人となりを記述する。第Ⅱ部「呪術にせまる」は、呪者のもつ〈わざ〉の側面に重点をおき、実際に実践される呪術の具体像にせまる。第Ⅲ部「呪者と呪術のあいだで」は、人と〈わざ〉の両者がどのくらい可分/不可分なものであるかという観点から、これまでの議論を綜合し、さらに現実/虚構、ホンモノ/ニセモノ、利己/利他、さらには科学/宗教/呪術といったさまざまな狭間に着目した考察を加える。最後に本書のタイトル「呪者の肖像」の発案者である関一敏が、終章「呪者の肖像のほうへ」で、この主題の研究の軌跡をまとめる。

 

 

 

岸上 伸啓 『贈与論再考』

岸上 伸啓

 2016 『贈与論再考 ――人間はなぜ他者に与えるのか』 臨川書店

 

目次

はじめに (岸上伸啓)

第1部 モースの「贈与論」とその後の展開

第1章 『贈与論』再考―人類社会における贈与、分配、再分配、交換(岸上伸啓)

第2部 贈与以前

第2章 贈与以前―ヒト科類人猿の食物分配(岩田有史・田島知之)

第3部 モースの「贈与論」の再検討

第3章 ポトラッチとは、ポトラッチにおける贈与とは(立川陽仁)

第4章 アラスカ先住民社会における伝統食分配とポトラッチの社会的意義(井上敏昭)

第5章 毒と贈り物―先住民エンベラにおける社交の想像から見る贈与(近藤宏)

第6章 ヴァス論再考―フィジーにおけるある贈与関係の変遷(丹羽典生)

第7章 カザフスタンにおける喜捨の展開―アッラー・死者・生者の関係に着目して(藤本透子)

第4部 「贈与論」の新展開

第8章 誰と分かちあうのか―サンの食物分配にみられる変化と連続性(丸山淳子)

第9章 <借り>を回すシステム―タンザニアにおける携帯による送金サービスを事例に(小川さやか)

第10章 現代モンゴル国における贈与―ゲルとその部品のバイオグラフィーより(風戸真理)

第11章 災害支援と贈与―20世紀前半の婦人会活動を事例として(山口睦)

第12章 「反-市場」としての贈与―南フランスの青果市場の事例から(中川理)

おわりに (岸上伸啓)

 

内容紹介

古今東西を通じて人と人のあいだには様々なモノのやりとりが存在する。このモノのやりとりについて、文化人類学の分野では、1925年に発表されたマルセル・モースの『贈与論』を契機に、「贈与」という概念が定着し、多くの研究成果が生み出されてきた。本書では、世界各地で活躍する現役の研究者たちが収集した多様な事例をもとに、モースの『贈与論』を出発点とする諸研究を検証しつつ、人間社会に見られる「与える」という行為について再検討する!

 

一言コメント

 こちらは贈与をテーマにした論集で、同じく国立民族学博物館の共同研究を基に編まれたもの。寄稿者は先の『再分配のエスノグラフィ』よりも年長世代の人々が多めになっています。少し部の構成がバランス悪いようにも思えますが、贈与論の基礎的なところから現代における意義まで網羅的に扱われているので、初学者からベテランまで得るところの多い一冊になっているのではないでしょうか。