人類学の書籍紹介

人類学の文献を(読んだものは)コメント付きで紹介します

石山俊 2017 『サーヘルの環境人類学 ――内陸国チャドにみる貧困・紛争・砂漠化の構造』

石山俊

 2017 『サーヘルの環境人類学 ――内陸国チャドにみる貧困・紛争・砂漠化の構造』 昭和堂

 

目次

はじめに

序 章 サーヘル内陸国チャドの諸問題とその捉え方

 

第Ⅰ部 チャド盆地の地理・生業・文化

第1章 チャド盆地の自然環境

第2章 チャドの農牧漁業

第3章 チャドの人口分布・民族・文化

 

第Ⅱ部 サーヘル内陸国チャドの形成と近代政治経済史

第4章 サハラ交易とサハラ南縁のイスラーム文明形成

第5章 フランス領チャドの形成

第6章 フランス領チャドの植民地経営と独立後の経済

第7章 チャド独立後の政治紛争史

 

第Ⅲ部 サーヘル内陸国チャドの砂漠化と住民生活

第8章 サハラ南縁の気候変動と砂漠化

第9章 チャド湖南岸の住民生活と砂漠化

第10章 NGO「緑のサヘル」の砂漠化対処活動

第11章 改良カマドの実際の使用条件下での効率

 

終 章 サーヘル内陸国チャドの貧困・紛争・砂漠化の構造

おわりに

 

内容

サハラ砂漠南縁に広がるサーヘル地域。深刻な砂漠化が国際的関心事となっているこの地域にあって、とりわけ貧しいチャド共和国。かつてサハラ交易により繁栄したチャドが現在かかえる問題とは。「内陸国化」を軸に貧困・紛争・砂漠化の構造に切り込む。

 

 

 

川田順造 1976 『無文字社会の歴史』

川田順造

 1976 『無文字社会の歴史 ――西アフリカ・モシ族の事例を中心に』 岩波書店

 ※同時代ライブラリー・16(1990)、岩波現代文庫学術60(2001)も有

無文字社会の歴史―西アフリカ・モシ族の事例を中心に (岩波現代文庫)

無文字社会の歴史―西アフリカ・モシ族の事例を中心に (岩波現代文庫)

 

 

目次

1 はじめに

2 非文字資料の一般的性格

3 文字記録と口頭伝承

4 モシ族の場合

5 系譜の併合

6 絶対年代の問題

7 歴史の始点

8 反復する主題

9 口頭伝承の定型化

10 首長位の継承

11 歴史伝承と社会・政治組織

12 イデオロギー表現としての歴史伝承

13 歴史伝承の「客観性」

14 歴史伝承の比較

15 制度の比較

16 発展段階の問題

17 「伝統的」社会という虚像

18 神話としての歴史・年表としての歴史

19 文字と社会

20 おわりに

 

内容

無文字社会の歴史のあり方を探究することは,人類文化における文字社会を相対化する視点を築くことに通ずる.1960年代から70年代前半に西アフリカ・モシ族を現地調査し,口頭伝承や太鼓ことばなどの豊かな音の世界や儀礼から無文字社会の歴史と構造を鮮やかに分析した本書は,日本の文化人類学の記念すべき達成である.

 

一言コメント

 日本文化人類学会の巨星、川田順造の代表作。文字を持たず、太鼓のリズムで歴史を伝えるモシ族の人々について、人類学的な知見を縦横に駆使して分析した一冊です。私がこの本を読んだのはもう20年も前の中学時代なので、正直に言って詳しい内容は忘れてしまいましたが、非専門家にも読みやすく、かつエキサイティングな一冊であることは間違いありません。

 

床呂郁哉・河合香吏(編) 2011 『ものの人類学』

床呂郁哉・河合香吏(編)

 2011 『ものの人類学』 京都大学学術出版会

ものの人類学

ものの人類学

 

 

目次 

プロローグ:ものをして語らせよ

序章:なぜ「もの」の人類学なのか?[床呂郁哉・河合香吏]

 

第Ⅰ部 「もの」の生成・消滅・持続

1章 かたち・言葉・物質性の間 ――陝北の剪紙が現れるとき[丹羽朋子]

2章 潜むもの,退くもの,表立つもの ――会話におけるものと身体の関わり[菅原和孝]

 

第Ⅱ部 「もの」と環境のネクサス

3章 「もの」の御し難さ ――養殖真珠をめぐる新たな「ひと/もの」論[床呂郁哉]

4章 土器文化の「生態」分析 ――粘土から「もの」へ[印東道子]

 

エッセイⅠ    現れる「もの」

1 名前がかたちを得る場:ものと経験を動員するジャワバティックの伝統文様[佐藤純子]

2 カシュタが人を動かす:ウズベク刺繍がもつ「もの」の力[今堀恵美]

3 ものと人の関係性の「遊び」:バナナと人間は依存しあっているか?[小松かおり]

 

第Ⅲ部 「もの」と身体のダイナミクス

5章 土器つくりを知っている ――エチオピアの女性土器職人の「手」と技法の継承[金子守恵]

6章 男性身体と野生の技法 ――強精剤をめぐる自然・もの・身体[田中雅一]

 

エッセイⅡ    妖(怪)しい「もの」

1 パゴダと仏像のフェティシズム[土佐桂子]

2 身体から吸い出される「もの」:ラダックのシャーマニズム儀礼より[宮坂 清]

 

第Ⅳ部 「もの」のエージェンシー

7章 仮面が芸能を育む ――バリ島のトペン舞踊劇に注目して[吉田ゆか子]

8章 「生きる」楽器 ――スリンの音の変化をめぐって[伏木香織]

9章 ものが見せる・ものに魅せられる ――インドの占い師がもたらす偶然という「運命」[岩谷彩子]

 

エッセイⅢ    揺らぐ「もの」

グローバル化するアボリジニ絵画,ローカル化する「芸術」[窪田幸子]

2 太平洋諸島移民アーティストの身体と芸術のかたち[山本真鳥]

3 ほんものであり続けること:「紅型」と「琉球びんがた」のあいだ[村松彰子]

 

第Ⅴ部 新たな「もの」論へ

10章 道具使用行動の起源と人類進化[山越 言]

11章 霊長類世界における「モノ」とその社会性の誕生[黒田末寿]

12章 身体と環境のインターフェイスとしての家畜 ――ケニア中北部・サンブルの認識世界[湖中真哉]

13章 チャムスの蝉時雨 ――音・環境・身体 [河合香吏]

 

エピローグ:意志なき石のエージェント性 ――「もの」語りをめざして[内堀基光]

あとがき

 

 

内容

人を動かすのはモノである。だからこそ、いわゆる物質文化研究ではない、真に【モノを主人公にした】人間中心主義を 越えた人類社会論を構 築するのだ。熟練の逆説/ものの介入/記号的なものの物質性/アフォーダンス等々——音や会話といった事象をも対象に斬新な方法・ 視点と溌剌とした議論で、新しい人類学を拓く秀作。

 

 

一言コメント

 日本の人類学における「マテリアリティ・ターン」を牽引した記念すべき論集。欧米では2000年代初頭より、ブルーノ・ラトゥールやダニエル・ミラーの強い影響の下に人間中心主義を越えてモノのエージェンシーを探ろうという機運が高まっており、それがようやく日本でも受容されるようになったわけです。言うまでもなく人間もモノの一つなのだから当たり前の方向性ではあるのですが、自分だけは特別だと思いたい人間の傲慢さにはなかなか根深いものがありますよね。(必ずしも本書への批判ではありません)

 

科学論の実在―パンドラの希望

科学論の実在―パンドラの希望

 
Materiality (Politics, History, and Culture)

Materiality (Politics, History, and Culture)

 

 

片倉もとこ 1991 『イスラームの日常世界』

片倉もとこ

 1991 『イスラームの日常世界』 岩波書店

イスラームの日常世界 (岩波新書)

イスラームの日常世界 (岩波新書)

 

 

目次

はじめに

Ⅰ 人間は強いか弱いか

Ⅱ 祈りと仕事のいい関係

Ⅲ 「ベール」の下の女の世界

断食月は楽しい

Ⅴ メッカへ、メッカへ

Ⅵ なるべく動きたまえ

Ⅶ 何がいちばん大切か

むすびにかえて――イスラームと近代化

あとがき

 

内容

イスラームは,いまや第三世界にとどまらず地球的規模に広がっている.その世界観が,幅広い世代にわたって,十億もの人びとの心をひきつけるのはなぜか.長年,世界各地の実情を見てきた著者が,生活体系としてのイスラームを,断食,礼拝,巡礼などの基本的な生活習慣や,結婚・職業観などから語り,その真髄を解き明かす.

 

 

一言コメント

 1960年代の末に当時は不可能だと思われていたサウジアラビアでの長期調査を敢行し、日本の中東研究を切り開いた片倉もとこ氏。現在はみんぱくで回顧展「サウジアラビア、オアシスに生きる女性たちの50年 ―「みられる私」より「みる私」」も開かれるなど、再評価の機運が高まっています。しばしばテロや女性の抑圧などと絡めた欧米的な偏見の目で見られるイスラーム文化を、例えば女性のヴェールは抑圧ではなく女性が見られることなく見るための装置なのだといったように、日常生活の観点から捉え直してゆきました。本書は平易ながら片倉イスラーム学のエッセンスがつまった、イスラームや片倉もとこを知るためのもっとも手に取りやすい一冊。いわゆる多文化社会化が不可逆的に進行する現在、必読の一冊だと言ってよいでしょう。

www.minpaku.ac.jp

風間計博 2017 『交錯と共生の人類学』

風間計博

2017 『交錯と共生の人類学 ――オセアニアにおけるマイノリティと主流社会』 ナカニシヤ出版  

交錯と共生の人類学: オセアニアにおけるマイノリティと主流社会

交錯と共生の人類学: オセアニアにおけるマイノリティと主流社会

 

 

目次

はじめに 

序 章 現代世界における排除と共生(風間計博)

 

第Ⅰ部 移動する人間と「混血」

第1章 鯨歯を纏い,豚を屠る ――フィジーにおけるヴァヌアツ系フィジー人の自己形成の視点からみた共存(丹羽典生)

第2章 「その他」の人々の行き交う土地 ――フィジー首都近郊に生成する「パシフィック人」の共存(風間計博)

第3章  ニュージーランドマオリの「混血」をめぐる言説と実態(深山直子)

第4章 ヤップ離島社会の共生戦略におけるアイデンティティとネットワーク(柄木田康之)

 

第Ⅱ部 新たなマイノリティの生成:性・高齢者・障害

第5章 マフとラエラエの可視化と不可視化 ――フランス領ポリネシアにおける多様な性の共生(桑原牧子)

第6章 母系社会・パラオにおけるマイノリティは誰か?(安井眞奈美

第7章 高齢者の包摂とみえない異化 ――ヴァヌアツ・アネイチュム島における観光業とカヴァ飲み慣行(福井栄二郎)

第8章 「障害」をめぐる共存のかたち ――サモア社会における障害支援NGO ロト・タウマファイによる早期介入プログラムの事例から(倉田 誠)

 

第Ⅲ部 差異をめぐる記憶と感情

第9章 帝国の記憶を通した共生 ――ミクロネシアにおける沖縄人の慰霊活動から(飯髙伸五)

第10章 狂気に突き動かされる社会 ――ニューギニア高地エンガ州における交換と「賭けられた生」(深川宏樹)

 

内容

人類学的な共生の論理とは何か

オセアニア島嶼部における移民・「混血」,性・障害,記憶・感情といった民族誌事例を提示しながら,錯綜した現代世界における新たな共生の図式を描くための論理を追究する。

 

ギアツ 1990(1980) 『ヌガラ――19世紀バリの劇場国家』

ギアツ、クリフォード

 1990(1980) 『ヌガラ――19世紀バリの劇場国家』小泉潤二(訳)、みすず書房 

ヌガラ――19世紀バリの劇場国家

ヌガラ――19世紀バリの劇場国家

 

 

目次

緒言

序章 バリと歴史学的方法

第1章 政治的定義づけ――秩序の源

 模範的中央の神話

 地誌と権力均衡

第2章 政治の解剖――支配階級の内部組織

 出自集団と沈降する地位

 主従関係

 同盟関係

第3章 政治の解剖――村落と国家

 村落の政体

 プルブクル体系

 灌漑の政治

 通商の形態

第4章 政治的言述――演出と式典

 権力の象徴論

 寺院としての宮殿

 火葬と地位抗争

結論 バリと政治理論

 

内容

かつてバリ島には数百もの小王国“ヌガラ”があった。本書は、そこに見られる親族・社会関係、農業・通商組織、政治関係、そして国家儀礼・宗教観念・神聖王制の研究から、非常に刺激的な国家論―劇場国家論―を構築する。

 

 

一言コメント

 国家があるから儀礼を催行するというよりも、むしろ儀礼を催行するために国家があるとする「劇場国家」論を提示した古典的名著。本書の半分を占める注や、国家の儀礼が少しずつ縮小しながら末端の村々の儀礼へと再生産されてゆくフラクタル的な構造の分析も見どころです。

大石高典ほか(編) 2019 『犬からみた人類史』

大石高典・近藤祉秋・池田光穂(編)

 2019 『犬からみた人類史』 勉誠出版

犬からみた人類史

犬からみた人類史

 

 

目次 

序章 犬革命宣言―犬から人類史をみる

 

第1部:犬革命

第1章 イヌはなぜ吠えるか―牧畜とイヌ 藪田慎司

第2章 犬を使用する狩猟法(犬猟)の人類史 池谷和信

第3章 動物考古学からみた縄文時代のイヌ 小宮孟

第4章 犬の性格を遺伝子からみる 村山美穂

第5章 イヌとヒトをつなぐ眼 今野晃嗣

第6章 犬祖神話と動物観 山田仁史

【コラム1】文明と野生の境界を行き来するイヌのイメージ 石倉敏明

【コラム2】人と関わりをもたない犬?―オーストラリア先住民アボリジニディンゴ 平野智佳子

 

第2部:犬と人の社会史

第7章 カメルーンバカ・ピグミーにおける犬をめぐる社会関係とトレーニング 大石高典

第8章 猟犬の死をめぐる考察―宮崎県椎葉村における猟師と猟犬の接触領域に着目して 合原織部

第9章 御猟場と見切り猟―猟法と犬利用の歴史的変遷 大道良太

第10章 「聞く犬」の誕生―内陸アラスカにおける人と犬の百年 近藤祉秋

第11章 樺太アイヌのヌソ(犬ぞり) 北原次郎太

第12章 忠犬ハチ公と軍犬 溝口元

第13章 紀州犬における犬種の「合成」と衰退―日本犬とはなんだったのか 志村真幸

第14章 狩猟者から見た日本の狩猟犬事情 大道良太

【コラム3】南方熊楠と犬―「犬に関する民俗と伝説」を中心に 志村真幸

 

第3部:犬と人の未来学

第15章 境界で吠える犬たち―人類学と小説のあいだで 菅原和孝

第16章 葬られた犬―その心意と歴史的変遷 加藤秀

第17章 犬をパートナーとすること―ドイツにおける動物性愛者のセクシュアリティ 濱野千尋

第18章 ブータンの街角にたむろするイヌたち 小林舞・湯本貴和

第19章 イヌとニンゲンの〈共存〉についての覚え書き 池田光穂

【コラム4】イヌのアトピー性皮膚炎 牛山美穂

【コラム5】シカ肉ドッグフードからみる人獣共通のウェルビーイング 立澤史郎・近藤祉秋

 あとがき

 

内容

犬をめぐる刺激的な思考実験の旅!

人は最も身近なパートナーである犬と、どのようにして関係を築いてきたのか?進化生物学から、文化人類学民俗学、考古学、実際の狩猟現場……、過去から未来まで、様々な角度からとらえた犬の目線で語られる、「犬好きの、犬好きのための、犬好きの執筆陣による」全く新しい人類史!!