人類学の書籍紹介

人類学の文献を(読んだものは)コメント付きで紹介します

マリノフスキ 『西太平洋の遠洋航海者』

マリノフスキ、ブロニスワフ

 2010(1922) 『西太平洋の遠洋航海者』増田義郎(訳)、講談社(学術文庫)

 

 

目次

訳者まえがき
序文  J・G・フレイザー
序 論 この研究の主題・方法・範囲
第一章 トロブリアンド諸島の住民
第二章 クラの本質
第三章 カヌーと航海
第四章 ワガの儀式的建造
第五章 カヌーの進水と儀式的訪問──トロブリアンド諸島の部族経済
第六章 渡洋遠征への出発
第七章 船団最初の停泊地ムワ
第八章 ピロルの内海を航行する
第九章 サルブウォイナの浜辺にて
第十章 ドブーにおけるクラ──交換の専門技術
第十一章 呪術とクラ
第十二章 クラの意味

 

内容

ソウラヴァ(首飾り)とムワリ(腕輪)をそれぞれ逆方向に贈与していく不思議な交易「クラ」。「未開社会の経済人」は、浅ましい利得の動機に衝き動かされる存在なのか? 物々交換とは異なる原理がクラを駆動する。クラ交易は、魔術であり、芸術であり、人生の冒険なのだ。人類学の金字塔が示唆する「贈与する人」の知恵を探求する。

 

 

一言コメント

 長期滞在と参与観察に基づく人類学的フィールドワークに基づいて記述された(ほぼ)初めての民族誌。近代人類学は本書とともに創始され、機能主義と呼ばれる思想の源流ともなった記念すべき著作です。もともとは中公の「世界の名著」59巻にレヴィ=ストロースの『悲しき熱帯』とともに訳出されており、本書のテクストはそれを改訳したものです。

 一点だけ残念なのは本書が抄訳であること。長々しい呪術の記録など、本来マリノフスキーが一番重視していた部分がごっそり落とされています。読者の便を考えると仕方のないことではありますが、興味を持った方はぜひ原著にも当たってほしいものです。