人類学の書籍紹介

人類学の文献を(読んだものは)コメント付きで紹介します

春日直樹(編) 2011 『現実批判の人類学 ――新世代のエスノグラフィへ』

春日直樹(編)

 2011 『現実批判の人類学 ――新世代のエスノグラフィへ』 世界思想社

現実批判の人類学― 新世代のエスノグラフィへ

現実批判の人類学― 新世代のエスノグラフィへ

 

 

 

目次

序章 人類学の静かな革命――いわゆる存在論的転換(春日直樹

第Ⅰ部 軌跡と展望

第1章 世界を制作=認識する――ブルーノ・ラトゥール×アルフレッド・ジェル(久保明教)

第2章 所有の近代性――ストラザーンとラトゥール(松村圭一郎)

第3章 どうとでもありえる世界のための記述――プラグマティック社会学と批判について(中川理)

第Ⅱ部 人類学の推進力

第4章 民族誌機械――ポストプルーラリズムの実験(森田敦郎)

第5章 「揺れ」について――地震と社会をめぐる実験・批判・関係性(木村周平)

第6章 脳死の経験とその正当性(山崎吾郎)

第Ⅲ部 現実という批判

第7章 監査される事件、監査されざる場所――ある盗難事件をめぐる〈静かな革命〉へのパースペクティヴ(猪瀬浩平)

第8章 呪術的世界の構成――自己制作、偶発性、アクチ ュアリティ(石井美保)

第9章 病気の通約――血糖自己測定の実践における現実としての批判(モハーチ・ゲルゲイ)

第10章 使えない貨幣と人の死(深田淳太郎)

第Ⅳ部 潜勢態としての現実

第11章 「性転換」という迷路――「性同一性障害(者)」における性自認をめぐる欲望と現実(市野澤潤平)

第12章 身体の宙ぶらりん――インド、オディシャーのブランコ遊びと現実批判(常田夕美子)

第13章 人間の(非)構築とヴィジョン(春日直樹

 

 

内容

自然と文化、人間とモノ、主体と客体の二項対立を無効化する地平に立ち、現実が現実として構築される過程を細緻に分析することによって、世界が変わりうることを示す。「人類学の静かな革命」に共鳴する、別の現実を想像=創造する試み。

 

 

 

一言コメント

 ストラザーンやジェル、ラトゥールらの議論を一つの大きな理論的潮流と捉えるHenareらは、Thinking Through Thingsの中でこの潮流を「存在論的転回(ontological turn)」と名付けた。本書はこの「存在論的転回」(春日は「存在論的転換」と呼ぶ)をはじめてまとまった形で日本に紹介した記念すべき論集です。率直に言って各論の出来はピンキリで、中には「存在論的転回」を理解していないとしか思えない論文も混じっているのですが、この「転回」を肯定するにせよ批判するにせよ、現在の日本において人類学を学ぶ者であれば絶対に読まねばならない一冊となっています。